堀口佐知子上級准教授のポートレート写真

教養プログラムにはヨーロッパの大学教育と同じくらい長い歴史があります。その起源は中世に遡り、学生にバランスのとれた教育を施し、神学、法学、医学という、より専門性の高い3分野に進む準備を整えることを目的としていました。現代の教養学科のプログラムはこの伝統を受け継いでいます。大学院への進学を予定する学生には賢明な選択です。

テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)も例外ではありません。TUJの教養学科は人文科学、リベラルアーツ(教養教育)、社会科学の学際的プログラムになっています。学生は授業を組み合わせて独自のプログラムを創り出し、特定のトピックを詳細に学び、異なる学問分野で採用されているさまざまな方法論やパラダイム(知の枠組み)のアプローチを探求することができます。教養学科は大学院や、より特化した専門分野への足掛かりになることが多いとTUJの教養学科専攻コーディネーターである上級准教授 堀口佐知子は話します。準学士号取得を目指す学生にも人気の高い選択です。

学修領域を自分で決める

教養学科では、General Studies(一般教養)という名の通り、大変幅広いアプローチが採られています。そして、実際に本学の教養学科では、言語や歴史学から経済学や心理学に至るまでのあらゆる分野の探究へと扉が開かれています。学生は2学科同時専攻(ダブルメジャー)や主専攻とあわせて副専攻を履修する際に要求される著しい負担増を経験することなく、さまざまな関心事項を自由に追求できます。教養学科は、専門分野に特化したカリキュラムを望まない学生、興味の幅が広い学生、将来のキャリアパスをまだ決めていない学生などに最適な選択です。当初選んだ専攻課程の途中で別に打ち込みたいものを見つけたものの、振出しに戻って、新たな専攻でさらに2〜3年過ごすことまでは望まない学生にとっても、良い選択になります。

また意外に思われるかもしれませんが、教養学科は非常に具体的なことに関心のある学生にとっても最適な選択です。現代社会の多くの現象を理解するためには、学際的なアプローチが必要です。例えば、マイノリティーが直面する問題について包括的に概観するためには、歴史学、経済学、政治学、社会学、心理学の知識が不可欠です。一つの側面だけに焦点を合わせてしまうと、多くの場合、実効性に欠ける問題解決策が生み出されてしまいます。教養学科に固有の柔軟性のおかげで、学生は一つの現象をさまざまな視点から見ることができます。その結果、理解が深まるとともに、実用的な解決策を見出せる可能性が高まるのです。

分野を超越する強み

堀口佐知子上級准教授のポートレート写真
Photography by: Olga Garnova

教養学科の最大の強みはその柔軟性にあります。学生自ら科目を組み合わせて独自のプログラムを創り出し、目指す教育目標を達成していくことができます。とはいえ、柔軟性があるということは、決められた枠組みがないという意味ではありません。学士号取得を目指す学生は全員が、教養学科で最低でも15科目を受講しなければなりません。社会科学か人文科学のいずれかの領域を選び、その中から重点科目として5科目を履修します。そして、他方の領域からさらに3科目の上級レベル科目を受講する必要があります。さらに学際的な選択科目として、選択した専門分野から7科目を選択し、うち3科目については主要専攻分野とは別の学問分野から選択しなければなりません。例えば、重点科目の分野として経済学を選択した場合、経済学の5科目、社会科学(例えば政治学、心理学、人類学)の7科目、人文科学(例えば美術史、言語、哲学)の3科目を履修する必要があります。

教養学科で学生が享受できる選択の自由は大変有益なものだと堀口は考えています。独自のカリキュラムをデザインするので、大学院進学に向けて適切に準備ができます。与えられた選択肢を自分なりに評価し、そこから最適なものを選択し、将来の計画を立てる能力を身に着け、また、学際的な知見を得ることで、労働市場で優位に立つことができるのです。

将来を見据えた選択肢

労働市場の専門家は、脱工業化経済においては、批判的思考と創造的思考、コミュニケーションスキルと社会的スキル、複雑な問題を解決する能力と分析能力、データ管理といった、「ソフト」スキルをもつ専門家がますます必要とされると予測しています (参考:世界経済フォーラムによる「職の未来」レポート Future of Jobs – Reports – World Economic Forum)。さらに、求人市場は絶えず加速度的に変化を遂げています。多くの業界で今最も需要の多い仕事は、10年前には存在していませんでした。ですから、10年後には間違いなく、今は聞いたことのない仕事が出現していることでしょう。世界経済フォーラムの予測では、現在の仕事に必要なハードスキルと知識の約30パーセントは、今後10年間で無意味になるとのことです。

「このような雇用環境では、キャリアの成功には生涯学び続けることが重要になる」と堀口は指摘します。そして、「リベラルアーツは、自己成長のための確固たる基盤を構築しつつ、絶え間ない自己成長を促します」とも言います。さらに、教養学科で学際的な教育を受けることで、新たな労働市場の需要や雇用状況に対応できるようになります。急速に変化していく世界において優位に立つ鍵となるのは、多くの異なる視点から問題を捉える能力です。


執筆者: オリガ・ガルノヴァ(2017年卒業 コミュニケーション学科/アート学科同時専攻)